傷薬作製終了まで00:00:00
傷薬が完成しました。出現場所を指定してください。
夕飯の準備をしていたらセットしていた傷薬が完成した。
いつものようにストック用の容器にできた薬をいれておく。
傷薬を作るのはこれで3回目なので30mlの軟膏がたまっていた。
ルイスちゃんに魔石を渡してもらってから薬品作製ができるようになったのだが、今のところ作れるのはこの傷薬だけだ。
レベルを上げるためにも暇を見ては作製している。
怪我をしたことがないから効果のほどはわからないのだが、日本で売っている薬品に比べて10倍以上の効き目があるらしい。
しかも魔力に反応する薬品なので男よりも女に効く。
この世界の男には魔力がないからね。
本当に不公平なことだと思うよ。
もっとも俺は創造魔法が使えるイレギュラーなので、魔力だってちゃんと持っている。
クスリの効果もバッチリだ。
説明書きだけだとわからないから、実際の効き目を試してみたいのだけど、自分を傷つけてまでは嫌だ。
じゃあ、動物実験ができるかというとそれも可哀想でできない。
釣り上げた魚を使おうかと考えたこともあったけど、傷をつけて、それを治療して、さらに殺して食べるというプロセスはあまりに酷い気がしてできなかった。
じゃあ、治療をしたら海に逃がしてやる?
そんな余裕はない!
釣ったらしっかり食べる!
これがこの島で生き抜く鉄則だ。
豊漁の時は干し魚にしたり燻製にしたりと保存食を作り、不漁の日に備えなくてはならない。
畑からの収穫が安定するまでは甘いことは言っていられないのだ。
(そういえばリーアンがいたな……)
どこか怪我しているところとかないかな?
薬を塗ってあげるとか言ったら、リーアンなら喜んで塗らせてくれそうな気がする。
もっともアイツのことだから「アソコが腫れてます」というベタな下ネタをかましてくる確率も高い。
使う機会がないことはいいことだと考えて、しばらくは貯蔵分を作り続けることにしよう。
「おはようシローちゃん、いい匂いがするね」
仮眠をしていたリーアンが起きだしてきた。
「よく休めましたか? こんばんはブイヤベースとガーリックトーストですよ」
モンテ・クリス島の海の幸をふんだんに入れた魚介のスープだ。
すりおろしたニンニクをバターに加え、パンに塗って焼いたトーストとよく合う。
リーアンの持ってきた食料は正規の値段で買い取らせてもらった。
バター、白ワイン、小麦粉、どれも必要なものばかりだ。
「リーアンさんは今後もモンテ・クリス島へやってきます?」
「うん? また、俺に会いたいのかい?」
「それもあるんですけど、もし買い物を頼めるようならお願いしたいなって……」
「そっちかい! でも、シローちゃんの為なら荷物運びくらいどうってことないよ」
「ありがとう、リーアンさん! 今日の夕飯は少し豪華にしますからね」
デザートにバナナケーキをつけてあげることにしよう。
バターも小麦粉も手に入ったからちょうどよかった。
「シローちゃん、夕飯は一緒に食べようよ。一人っていうのは味気なくてさ。いいだろう?」
それくらいなら別に構わないか。
「それじゃあお相伴にあずかります」
夕飯はリーアンと二人で食べることになった。
「カンパーイ!」
陶器のジョッキが触れ合う音が岩屋に響いた。
ガラスのワイングラスは作っていないのでワインはジョッキで飲んだ。
リーアンの魔法で程よく冷やされた辛口の白ワインがブイヤベースによく合う。
「こうしていると私たち夫婦みたいじゃない?」
「はいはい、酔わせてへんなことしようとしてもダメですからね。自分に触れたらゴクウたちが襲い掛かります」
「わかってるって。指一本触れないって約束するよ」
リーアンはヘラヘラと笑いながら俺のジョッキにワインを注ぎ足す。
世界の別はあっても異性を口説くときはやっぱり酒なのだろう。
酔えば理性のタガは外れやすくなるものだ。
それは俺自身もよくわかっていたから頑なに一杯しか飲まなかった。
残ったワインは全部リーアンに飲ませて酔いつぶしてしまおう。
「ほら、リーアンさん。もっと飲んで下さいな。ガーリックトーストのお代わりもありますよ」
「はぁ~、シローちゃんのお酌だとワインが進むなぁ。私は幸せだ」
持ってきた4本のワインのうち、2本をリーアンはほとんど一人で空けてしまった。
今はテーブルに突っ伏して眠っている。
もともとお酒はあまり強くはないのだろう。
帝都からの旅の疲れも残っていたのかもしれない。
「ほら、起きてください。こんなところで寝ちゃだめですよ」
「ううーん、まだ眠いよぉ……」
くっ、リーアンのクセに可愛いぞ……。
「はい、手を貸してあげるから立って。うん……しょと」
脇の下に首を入れてリーアンを立たせた。
いつも思うのだが酔っ払いってどうしてこんなに重いのだろう。
「くすぐったぁ~い……」
ああ、酒臭ぇ……。
でも、柔らけぇ……。
ほっぺのところに横乳が……。
こいつブラしてないな。
狙ってやっているんじゃなくて、この世界にはないようだ。
先日風呂を覗いた……ゲフンゲフン……湯加減を確かめに行った時も全員つけていなかったもんな。
あいているベッドの下の段にリーアンを何とか押し込んだ。
よろけてしまって顔がお胸様に挟まれたのは偶然だ。
本当だぞ!
「はあ、疲れた……」
本当はゴクウたちに運ばせれば楽だったんだけど、そうはしなかった。
俺がスケベだからじゃない!
これがホスピタリティだ!
さて、ゴクウたちに片付けの指示を出したら俺も寝ようかな。
今夜も部屋の鍵は開けておくか……。
リーアンと積極的にしたいわけじゃない。
だけど、タイミングが合えばその時は……。
男心は微妙なのだ。
「イワオ1号2号、お湯を沸かしてお風呂の用意をして。3号は松明の用意を」
命令するとイワオたちはすぐに動き出す。
お湯の温度は今日もぬるめにしておいた。
昼間の汗を落とし、石鹸を使って全身を綺麗に洗い流していく。
風呂上りには作製したての新しい下着に履き替えてからベッドに入った。
……リーアン、来るかな?
本当に来たらどうしようか?
それはその時に考えようと思った。
二人の気持ちが盛り上がればそのまま受け入れてもいいし、理性が働けば拒絶すればいい。
人間の選択なんて、その時の脳内における電気信号の動きによって変わってしまうこともあるそうだ。
本気で嫌がればリーアンは無理矢理犯すなんてことはしないと思う。
それくらいの信用ならできる。
したいような、したくないような、ものすごく宙ぶらりんな気持ちのまま俺は眠りに落ちていった。
いつものように日の出ともに目が覚めた。
シーツを上げて確認したけど下着は履いたままで、脱がされた形跡はない。
それはそうか。
さすがに忍んでくれば気が付くもんな。
自室の扉を静かに開けるとリーアンはもう起きていて荷造りをしていた。
「おはようございます。今日は随分とお早いのですね」
「おはよう。日暮れ前には帝都に戻りたいからね」
「すぐに朝食を用意します」
朝ご飯を作り、頼まれはしなかったけどお昼ご飯に食べられるようにサンドイッチも作ってあげた。
丸パンにショルダーベーコン、レタス、マヨネーズと胡椒を挟んだだけの簡単なものだけどね。
それでもリーアンはとっても喜んでくれた。
「これならワイバーンに乗りながらでも食べられそうだ。ありがとうシローちゃん」
「いえいえ、リーアンさんは私にとっては初めてのお客様ですからね」
「確かに。二段ベッドのバージンも、トイレのバージンも全部私が頂いたからな」
またそんな言い方を……。
たしかにベッドもトイレも初めて使ったのはリーアンだけどさ。
いつものように海岸までリーアンを見送りに出た。
「シローちゃん、昨日は断られちゃったけど、これだけは受け取ってくれないかな?」
リーアンがワイバーンの上から小さな包みを俺に見せてきた。
「でも……」
「必要ないなら捨ててくれても構わないから!」
そう言って包みを投げてよこしたので受け取らないわけにはいかなかった。
「気に入らなかったら雑巾にでもしてくれ」
それだけ言うとリーアンは視線を逸らしてワイバーンに鞭をあてた。
ワイバーンは助走をつけて三日月海岸を走り出す。
そしてふわりと空に浮かびあがった。
俺は手を振ってリーアンが見えなくなるまで見送った。
大きな飛竜が雲の向こうに消えると島がやけに静かになった気がした。
騒がしいリーアンがいなくなったからだろう。
セクハラ姉ちゃんだって、いなくなれば寂しくなるものさ。
そういえばこの包みは何が入っているんだ?
やけに軽いけど……。包みを開けた俺は思わず苦笑してしまう。
プレゼントの中身は真っ赤な下着だったのだ。
生地はかなり薄く、レースでスケスケだった。
これを俺に穿けというのか?
この世界の女は俺がこれを穿くと喜ぶのだろうか?
大切な人が喜んでくれるのならそれもいいけど……。
静かになった島に俺の乾いた笑い声が響く。
とりあえず雑巾にするのはやめておいて、作ったばかりの箪笥の奥にしまっておくことにした。
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