しかも、近くで見るとその背中には鞍のようなものが置かれ、人が乗っているのが見えた。
上空からこの島を調べているようだ。
もしかしたら着陸場所を探しているのかな?
そうだとしたら三日月海岸に着陸する可能性は非常に高い。
ここはモンテ・クリス島で一番開けた場所なのだ。
息を殺して見守っていると三匹の翼竜は着陸態勢に入り三日月海岸へと下降してきた。
おそらくだけど俺の岩屋は見つかっている気がする。
あそこは木を切り開いて陽当たりを良くしてあるのだ。
畑を作ったのが裏目に出たかもしれない。
だけど、この世界のみんながみんな俺をレイプしようとした兵隊や、あの女海賊のような奴らばかりではないだろう。
中にはクリス様やセシリーのようなまともな人だっていたのだ。
だったら覚悟を決めてファーストコンタクトを取ってみるか。
予想通り三匹の翼竜は砂浜に着陸した。
着陸や離陸には飛行機のように長い滑走路が必要なのだろう。
どたどたと足音を鳴らしながら砂浜へと駆け下りていた。
垂直離陸はできないみたいだった。
翼竜が翼を下すと、乗っていた人たちが下りてきて周囲をうかがっていた。
「ルイス、油断をするなよ。どこに何が潜んでいるかは分からん。ワイバーンは降りる瞬間が一番危ないんだ」
「はい、隊長!」
40代くらいの渋めのオバ様が隊長さんらしい。
年齢はいっているけど凛とした美しさのある人だった。
ルイスと呼ばれた人はハイティーンくらいで、どうやら新人みたいに見える。
それとこの生物はプテラノドンじゃなくてワイバーンだったのね。
そういえばプテラノドンより若干細長い気がするな。
「周囲に敵影なし。上空から見えた畑の方へ行ってみますか? 人がいるとしたらあそこしかないでしょうし」
少し鼻にかかった声で20代後半くらいの女性が隊長に尋ねていた。
こちらは何となくチャラい印象を受ける。
チャラ男ならぬチャラ女(じょ)だな。
「それがいいだろう。見てみろ。ここから畑の方角へ続く道があるぞ」
それはイワオが作った道だ。
これはもう完全に見つかっているね。
だったらこちらから挨拶して心証を良くしておこう。
それにこの隊長さんとルイスさんとやらは悪人には見えない。
チャラ女も性格は悪くなさそうだった。
「こんにちは」
藪から出て、すこし可愛めな感じで挨拶をしてみた。
ちょっとあざとかったかな?
突然人が出てきたので3人は驚いていたが、俺が男だったこと、手には何も持っていなかったことで警戒を解いたようだった。
「突然の訪問で驚かせてすまない。我々はルルゴア帝国、国土管理調査院の調査隊だ。私は隊長のアリッサ・ミラノだ」
ルルゴア帝国と言えばクリス様のレガルタ王国と敵対していた国だな。
「自分はシロー・サナダです。この島で一人暮らしをしています」
「ここで一人暮らし!? マジで!?」
チャラ女がことさらな大声を上げる。
「どういうことなんだ?」
ミラノ隊長が真剣な目で俺を見つめてきた。
まさかクリス様と王都の牢獄を脱獄してきたなんて口が裂けても言えない。
「子どもの頃に漂流してきたのです」
思わず口をついた嘘だった。
「ふむ、その割に服が新しいようだが」
俺の格好は異世界から来た時と同じチノパンとコットンシャツだ。
だいぶくたびれてきたとはいえ、それほどの劣化はない。
「それは……、この島もまるっきり人が来ないわけじゃないんです。稀にですが海賊とか商船とかが補給にくることもあります。そういう人たちとブツブツ交換したりで……」
言い訳としては苦しいか?
「なるほどな。男を船に乗せるのは縁起が悪いから救助もされずか……。苦労しているようだな」
なんか知らないけど納得してくれちゃった。
「はあ。でも、ここはフルーツもたくさん取れますし、ヤギやシカなどの獲物も多いのです。魚もたくさん捕れますしね」
「ふむ。ところでここに徴税官がきたことは?」
「はい?」
「税金を納めるように求められたことはないのかと聞いている」
「すみません。この島がどちらの国の属領なのかも知らないのです」
「そうか。ここはルルゴア帝国の属領となる。今後、どのような形になるかはわからんが、君はルルゴア帝国の臣民であるということだけは覚えておくように」
逆らってもしょうがないので素直に頷いておいた。
「これからは、税金を払わなければいけないということですか?」
俺の質問にチャラ女が口を出す。
「こんなところまで取り立てにやってきたらとんでもない赤字だよね。安心しなよ、どうせ誰もやってこないさ」
「リーアン、軽率な口をきくな。それは上の決めることで私たちがどうこう言うことじゃない」
「はーい」
ミラノ隊長に叱られても、チャラ女は堪えた風には見えなかった。
「ところでシローとやら、どこかで休める場所はないだろうか? 今日は早朝から調査飛行をしてきたのでまだ食事もしていないんだ」
「それでしたら、私の家へどうぞ」
調査隊のメンバーを案内して岩屋へと戻った。
岩屋へ戻ると棍棒を持ったまま、直立不動の体勢をとった3体のイワオが俺たちを迎えてくれた。
「イワオ、彼女たちは客だ。手出しはダメだよ」
俺の言葉に入り口を塞いでいたイワオたちが道をあける。
「シロー、これは?」
「自分のゴーレムです」
「ゴーレムって、シローは男だよな?」
この世界では魔法を使える男はいない。
同じようにゴーレムを使える男もいないのだろう。
「えーと、なんだかわからないけど、俺の言うことを聞いてくれるんです。男好きのスケベゴーレムかも?」
「ふーむ、そういうこともあるのか……」
ミラノ隊長ってば、また納得しちゃった。
「なにこれ!? 歓迎モンテ・クリス島? シローの宿だって?」
看板を見たチャラ女が騒いでいる。
「こんなところにお客なんて来るのかよ?」
「いえ、まだ一人もいないですよ。ここまでご案内したのはあなた方が初めてですし」
「だったら私がアンタの初めての女だね、キシシ……」
チャラ女が俺のお尻を撫でながら岩屋の中へ入っていった。
さっそくセクハラされちゃったよ。
「リーアン!」
またもやミラノ隊長に怒られていたけど、チャラ女はペロリと舌を出しただけだった。
「すまないシロー。ずっと任務だったからしばらく男を見ていないのだ。それでちょっと興奮していてな……」
「隊長は真面目過ぎるんですよ」
「お前も母親になればわかる。自分の息子に色目を使われたらいい気はしないものだ」
ミラノ隊長には子どもがいるんだな。
年齢からみてもおかしなことではないけどね。
「あの、お子さんの面倒は誰が?」
「もちろん、国元の夫が育てている」
予想通りの答えだったが、これではっきりした。
この世界の子育ては父親が中心になってやるようだ。
シトラスグラスというハーブを使ったお茶を出した。
このハーブについてはセシリーが教えてくれた。
林の日当たりの良い場所にたくさん生えていたので畑の隅に移植しておいてある。
柑橘系の爽やかな香りと酸味が特徴のハーブティーだ。
「ここが宿屋なら食事を頼むことはできるだろうか? もちろん料金は払う」
「ありあわせのものでよろしければ」
「何でも構わんよ。我々が持ってきているのは水と干し肉だけだからな。それよりは美味いものを頼む」
きっと携帯食しかないのだろう。
それだったら美味しいものを用意してあげるとしようか。
この半月で岩屋の外に調理場を建てた。
カマドが三つと調理台が置いてあり、屋根もついている。
近くには水桶もあって、少なくなるとイワオが水を汲んできてくれた。
パンは昨日のうちに10個作製してあったので、これにメインとなるおかずをつけてやればいいだろう。
シンプルだけど朝獲った魚に塩を振り、小麦粉をつけてオリーブオイルとニンニクでソテーした。
同じ魚のアラと玉ネギでとっただし汁に、茹でたジャガイモを潰して入れればボリュームのあるスープもできる。
「ゴクウ、川で野菜を洗ってきてね」
料理をしていると岩屋の方からチャラ女の声が聞こえてきた。
「やっぱり男が料理をしている姿はそそるよなぁ。いいケツしてるぜ。ルイスもそう思うだろう?」
「ま、まあ……」
新人さんは俺と目が合うと真っ赤になって視線を逸らしてしまった。
初々しい反応が新鮮だ。
「ルイス、頼んだらやらせてくれるかもしれないぞ。処女を捨てるチャンスじゃないか」
チャラ女リーアンのセクハラ発言は続いていたが、ミラノ隊長が呆れたようにゲンコツを食らわせるとようやく黙った。
それにしてもルイスちゃんは処女なのか……。
そのまま30歳を超えたら魔女になる?
あっ、この世界だったら女の人は生まれた時から魔法使いなのね。
ルイスちゃんは特別美人というわけじゃないけど、素朴な顔立ちで好感が持てた。
大丈夫、君は可愛らしいから、そのうち好きな人と結ばれるよ。
どうしても捨てたいのなら相談には乗るけどね。
気分は若い男の子をたぶらかす妖艶なお姉さんだ。
この世界では性別が逆転するわけだけど。
ニンニクと白身魚の焼ける匂いが辺りに充満していった。