2019年11月20日水曜日

25 再訪

 砂煙を上げて三日月海岸に降り立ったワイバーンから一人のドラゴンライダーが下りてきた。
誰が来たのだろう? 
ワクワクしながら見守っていると、飛行帽を脱いだその姿は……リーアンだった。

「やあ、シローちゃん! お出迎えありがとう!」

 俺としてはルイスちゃんの方がよかったのだけどな……。
残念な気持ちを表情には出さないようにして歓迎した。
 美人度で言えばリーアンとルイスちゃんはほぼ同列だ。
ルイスちゃんの方がふくよかでトランジスタ型グラマー、一方のリーアンはどちらかというとスレンダーだ。
体型に関しては博愛主義者らしく、どちらも分け隔てなく愛せる。
だけど、ルイスちゃんはリアクションが初々しくて、お兄さん心をくすぐってくるのだ。
それに対してリーアンは隙あらばセクハラをかましてきてオヤジ臭い。
自分のいた会社の上司を思い出すのであまりいい気はしなかった。

「こんにちはリーアンさん。今日はお一人なのですね」
「ああ。ここいら一帯の制空権は完璧に帝国が握ったからね。編隊で飛ぶ必要はもうないのさ」

 戦争は帝国有利に進んでいるようだ。
俺としてはどうしてもクリス様が心配になってしまう。
ちょっと探りを入れてみるか……。

「そういえば帝国はレガルタ王国と戦争をしていましたね。戦況はどうなっているんですか?」

 何気ない風を装って聞いてみた。

「わが軍の大勝利! と言いたいところなんだけどね、東方のバワンダ城塞で大苦戦をしているようだよ。レガルタの戦姫が指揮を執っているという噂だからねぇ。上層部も頭を痛めてるだろうね」

 クリス様は無事にバワンダ城塞にたどり着いたんだな。
よかった……。

「なかなか大変なようですね」
「そうなんだよぉ。だから、シローちゃんに慰めてほしいなぁ」
「大変なのは前線の兵隊さんでしょう?」
「まあ、そうなんだけど」

 たわいもない話をしながら岩屋へと戻った。


「ほい、お土産だよ」

 リーアンが大きな麻袋を渡してくれた。
彼女は片手で渡してくれたのだが、俺が両手で持ってもよろけそうなほどに重い。
改めてこの世界の女のフィジカルについて思い知らされた。

「うわっ、重い」
「ごめん、ごめん」

 リーアンは謝りながら俺の体を支えてくる。
そんなことをしなくても袋を持ってくれればいいのにね。
こういうところが計算高い女なのだ。

「これは?」
「みてごらん。シローちゃんの役に立ちそうなものを用意してきたから」

 袋の中身は小麦粉、バター、ワインなどの食料品、そして新しい服が入っていた。

「いただけませんよ……」
「気にしないでって、ほんの気持ちなんだから」

 そうは言っても下心が見えているぞ。

「でも……」
「だったらさ、お風呂の時に背中を流してくれないか? お礼はそれだけでいいからさ」

 どうだろう?

「うーん……」
「それくらいならいいじゃん。絶対に何にもしないからさっ!」

 本音をいえばもっとすごいことをしてあげてもいい。
むしろしてあげたい。
ていうか、されたい! 
だけどね、ここで下手にリーアンと関係を持つのはよくないと思うんだ。
だってさ、この後には帝国本土から100人くらいの調査団が来るんだよ。
その中にはリーアンより好みのタイプがいるかもしれないじゃないか! 
チャラ女は一回関係を持ってしまったら「こいつは私の男だよ」的な態度をとりそうで嫌なのだ。
一晩だけのお愉しみならいいけど、その秘密が守れるかどうかは怪しいところだ。
偏見かもしれないけど、リーアンみたいなタイプは俺とセックスしたことを周りに自慢しそうな気がするんだよね。
しかも内容まで外に漏らすタイプとみた。
バイトの先輩だった川崎さんみたいな人だな。
あの人も彼女やセフレとのプレー内容を事細かく後輩に教えるのが大好きなゲスだった。
もしも同じようなことをされたら、俺はすぐにやれる男としていろんな兵士のお誘いを受けることになるかもしれない。
それはそれで好都合……ではない! 
その話を聞いて俺に寄って来るような女なんて碌なもんじゃないと思う。
所詮は体だけが目当てなわけだろう? 
そういうのも偶にはいいけどさ、そればっかりというのも心が荒(すさ)むと思うわけさ。
だいたい物でつられて背中を流すなんて、自分のプライドが許さない。
どうせならストレートに「やらないか?」と言われた方が納得できるというものだ。
俺だってやりたいわけだしね。
そのプレーの一環なら背中どころか全身だって洗ってあげるのに。

「お断りします。こちらはお返ししますね」
「いや、せっかくのお土産だから……」
「うちは普通の宿屋で売春宿ではありませんよ」

 決然と言い放つとリーアンは素直に頭を下げた。

「ごめん! そんなつもりじゃなかったんだ」

 そんなつもりだったんだろうけど、それでも素直に謝ったから許してあげることにした。
それにリーアンはどこか憎めないところもあるのだ。
どうせなら普通に口説いて欲しかったな。
そしたら、あとはタイミングの問題だったのかもしれない……。

 リーアンは帝国からの正式な書状を持ってきていた。
それによると調査団の出発は4日後になること、人数は非戦闘員を含めて118人。
調査期間はおよそ30日。
現場の指揮官はロッテ・グラムという中隊長だそうだ。

「この中隊長さんはどんな人です?」
「グラム男爵家の次女だったか三女だったか……、とにかく貴族の子女だよ。まあ、親のコネで上級士官に収まったお嬢ちゃんだね。あっ、今言ったことは内緒で頼むよ」

 口の軽さは相変わらずだな。

「年齢はいくつくらいの方でしょう?」
「なんで、そんなことを聞くのさ?」

 気になるからに決まっているじゃないか。
俺の恋愛対象年齢は17歳から45歳くらいまでくらいで、太平洋ベルトのように幅が広い。
だけど、これを越えてくる、あるいは下回るとちょっとね……。
そんなことを正直に言えるはずもなく、リーアンには適当に誤魔化した。

「ほら、年齢によってはお食事の好みとかが変わるじゃないですか。脂っぽいものは苦手とか……」
「そういうことか。たぶん20代前半だったと思うよ。年下好みのシローちゃんにはよかったんじゃない?」
「別に年下好みというわけじゃ……。あの時はルイスさんが可愛いと思っただけです」

 本当はちょい上くらいが大好きなのだが、そんなことを言ったらリーアンが調子に乗ってしまうな。

「ところでさ、新しい道ができていない?」

 岩屋の前からは南に向かって細い道が続いている。

「ゴーレムたちにお願いしたら道を作ってくれたんですよ。皆さんが遺跡に行くのに便利かなと思って」

 親切で可愛い男をアピールしながら言っておいた。

「うん、すごく助かると思う。なんかシローちゃんのおかげで至れり尽くせりだよ。これは国元にも報告しとかないと……」

 ぜひともやってくれ。
そしてロッテお嬢様とやらの心証をよくしておいてもらいたい。
貴族のお嬢様かぁ……。
どんな人がやってくるのだろう。
さすがに「美人ですか?」とかは聞けないもんな。

「はぁ……早朝から飛びっぱなしで疲れたよ。私は少しベッドで眠らせてもらおうかな」
「今夜はお泊り?」
「ああ。ワイバーンでも帝都まで日帰りはちょっときつい」

 高速で飛んでも8時間くらいはかかるような話だった。

 ベッドを用意してやるとリーアンはすぐにイビキをかいて眠りだしてしまった。
今晩はリーアンと二人きりか……。
でも、久しぶりに他人と過ごす夜を楽しみにしている自分もいる。
やっぱり無人島の生活は孤独なのだ。
いくらゴーレムたちがいてもそれだけじゃね。
会話に飢えているのだろうな。
そして人肌にも……。
夕食の仕込みをするために調理場へと向かった。

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