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2019年11月20日水曜日

37 勘違い

 酔って自分にしがみつきながら寝ているシローを、ロッテは軽々と抱き上げた。
シローの横顔は自分の胸の上の位置にあり、唇の感触と吐息がロッテを切ない気持ちにさせる。
この世界でいうところの、いわゆる王子様抱っこというやつだ。
まさか自分にこんなことをする日が巡ってくるとは想像もしていなかった。

「男将の部屋に運ぶ。扉を開けてくれ」

 シローを抱き上げる自分を士官たちが羨望の眼差しで見ているのがロッテにはよくわかった。
だからといって代わってやる気持ちなど欠片もない。
ところで、ロッテがシローを持ち上げてもゴーレムたちはなんの反応も見せなかった。
危害を加えられない限り攻撃はしないように命令されているのだ。
たとえロッテたちがシローを裸にしてもゴーレムたちは見ているだけだろう。
自分の意識がない状態を想定していないところがシローの認識の甘さでもあった。


 士官たちが岩屋の奥にあるシローの部屋に入るのははじめてのことだった。

「これが男の部屋か……」
「なんかいい匂いがしないか?」
「ああ。男将の匂いが充満しているな。ちょっと、これはヤバイかも……」

 士官たちはキョロキョロと部屋の中を見回していた。

「なあ男将さんのベッドってすごく広くないか? まるで誰かと寝るために作られたような……」

 当然だ。
これはクリスティアナがシローとたっぷり楽しむために作ったキングサイズのベッドなのだから。
その当時は石のベッドにヤシの葉が敷き詰められていた簡素なものだったが、今はシローが魔法で作成したマットレスとシーツが敷いてあった。

「一度でいい。このベッドで寝てみたい!」

 騒ぎ立てる士官たちをグラムは冷めた目で睨んだ。

「バカなことを言っていないでそこをどけ。男将を寝かせるんだから」

 貴重な財宝を扱うように、名残を惜しむかのようにゆっくりと、ロッテはシローをベッドへとおろした。

「ん〜、あれ? 俺のベッド?」

 寝ぼけたシローが半分だけ目を覚ます。

「そうだ、ここはお前のベッドだぞ」

 ロッテは慈しむようにシローに薄布をかけてやった。

「ん〜、俺、今夜は眠くて……また明日……たくさん頑張りますから……ね……」

 シローはそう言ってシーツをかけるために屈んでいたロッテの頭に腕を回して自分に引き寄せた。
そしてそのまま唇を重ね、当たり前のように自分の舌をロッテの口の中に差し込んだ。

「んっ!!!!!!!」

 硬直したまま動けないロッテの口の中でシローの舌がロッテのそれに絡みつき、ゆっくりと口の中をかき回していく。

「プハァ…………、おやすみなさい……クリスさ……ま……」

 シローの言葉に、ロッテの中で相反する二つの感情が同時に湧き上がってきた。
一つは純然たる肉体的な快楽の喜びだ。
だが、その一方でどうしようもなく悲しい気持ちにも包まれてしまう。
シローは私とキスしたわけじゃない。
夢の中でクリスという女とキスをしていただけなのだ。
だったら私の気持ちはどこへ向かえばいいのだ?

「あ、あんなすごいキスはじめてみた」
「ヤバイって、私、もう……」

 呆然とする彼女の周りで士官たちが騒ぎ始めていたが、ロッテの耳には全く届いていなかった。

「お前たち、そろそろ部屋を出よう。いつまでも男の部屋にいるわけにはいかないぞ」

 ダイアンに促されて士官たちは渋々と言った感じで足を動かす。
いつの間にか入り口のところで部屋の中を覗いていたシェリルも慌てて扉から離れていった。

「それにしても驚きましたね」

 ダイアンはロッテに話しかけたのだがロッテの反応はない。
無理もないことだろうとダイアンも思った。
あのようなキスをする男はルルゴア帝国のどこを探しても見つからないかもしれない。
おそらく隊長にとっては初めてのキス、それがアレではな……。

「ほら、グラム様も行きますよ!」

 ダイアンに肩を揺さぶられてロッテはようやく我に返った。

「ん? どうした?」
「そろそろ、行きましょう」
「そ、そうだな」

 そうは言ったもののロッテの足は動かなかった。
スヤスヤと眠るシローを見下ろしながらロッテがポツリと呼びかける。

「ダイアン……」
「どうしましたか?」
「部隊全員に通達。男将に酒を飲ませることを今より禁じる。これを破るものには厳しい罰を与えるからな」
「はい。私もそれがよろしいかと」
「お前たちもしっかりとシローを守ってやってくれ」

 ロッテはゴーレムたちに言ったのだが、当然のごとくゴーレムたちはピクリとも反応しなかった。
彼らはシローの命令以外は一切聞かないのだ。

   ♢

 頭が痛い。
普段と同じ時間に目覚めはしたものの、体が水分を欲していて目眩がするほどだった。

「ゴクウ、コップに水を汲んできてくれ」

 俺が作成した痛み止めは二日酔いの頭痛にも効くとのことだったので1錠服用しておいた。
まさかこんな形で自分が被験者になるなんて思わなかったよ。
だけどこの薬は劇的に良く効いた。
飲んで数秒後には頭の痛みは取れている。
胃のムカムカは治らないんだけど、胃薬は薬品作製がLv.3にならないと作れないんだよね。
今後のこともあるからこちらのレベルもしっかりあげておかないとな。
シャワーを浴びたい気分だけど今のところそんなものはない。
今度はシャワーでも作ろうか。
穴を開けた桶に湯を張り、イワオに持ち上げてもらうんだ。
これはいいアイデアかもしれない!
グラム様たちも喜んで試してくれるだろう。
俺はホスピタリティに溢れているからお客様が喜ぶ姿を見るのが大好きなのだ。
べ、べつにグラム様やダイアンさんのシャワー姿がみたいわけじゃないんだからねっ!


 小川の水で顔を洗っていたらグラム様達も起きだしてきた。

「おはようございます」

 薬のおかげでスッキリしていたので、爽やかな挨拶ができたと思うぞ。
だけどグラム様は顔を真っ赤にして視線を逸らしてしまった。

「どうかなさいましたか?」
「いや……おはよう」

 グラム様は挨拶もそこそこに顔を洗い始める。
ん~?

「おはよう男将」

 しばらくするとレインさんも川へやってきた。

「おはようございます、レインさん」
「今日もよろしく頼むよ。今日は地下一階のレリーフのある扉のところから探索を始めるからね。昨日積み上げた土塁をどかす作業からイワオにやらせてくれ」

 へっ?

「あの言葉、本当にうれしかったよ。私の為なら、たとえ火の中水の中、ダンジョンの中だって突入してやりますとも、か。男将のような男にあのようなことを言ってもらえるなんて私は果報者だよ。あと10年若かったらこの島に残って君と添い遂げることを本気で考えたと思う」

 えーと……。
うん、そんなようなことを言った記憶はぼんやりだがある。
……馬鹿。
バカ、バカ、バカ、バカ、俺のバカァ‼ 
酒のせいで気が大きくなっていたんだな。
なんであんなに飲んじゃったんだろう? 
いまさらお断りする勇気もないから、今日も頑張ってお手伝いをするか……。

「ところで、昨晩のことなんだがな……」
「ふえっ? 自分、他にも何かお約束しましたっけ?」
「いや、その……覚えていないのか?」
「何をでしょう?」

 ダンジョン攻略のお手伝いをすると言ったのは何となく憶えているけど、その後の記憶は……ないな。 
レインさんはとても困惑した顔をしていた。

「……男将もいろいろと辛い経験をしたのだな」

 辛い経験?

「その……クリス様というのは亡くなった奥さんのことなのだろう?」

 やべっ! 
俺、酔っぱらってクリス様のことを喋っちゃったのか!? 
クリス様は帝国と敵対するレガルタ王国の人間だぞ。
大丈夫だろうか……。
って、なんでクリス様が俺の奥さんなの? 
死んだってどういうこと?

「困ったことがあったら私にも相談してくれ。力になるからな」

 レインさんの様子を見る限り問題はなさそうだけど……。

「もしかして、酔っぱらって何かしてしまいました?」
「実は亡くなった奥さんと勘違いしてグラム様にキスをだな……」

 そんなことしちゃったの!?
道理で目を合わせてくれないわけだよ。
後できちんと謝っておかないと……。
はあ、憂鬱だ。
グラム様とキスできたのに全然記憶にないのも腹立たしい。
俺、何やっているんだかな……。
すごーーーく反省した。 

 それとなく士官たちにも探りを入れてみたんだけど、やっぱり俺は妻を亡くした未亡人(男)ということになっていた。
そして、その日の内に三人に口説かれちゃったよ。
連れ合いを亡くして一人で宿屋を経営する未亡人(男)、帝国の女にとってはたまらないシチュエーションらしい。
否定しようにも気の利いた言い訳を思いつかないので、そういうことにしておいた。
……いいのか?

70 追跡は終わり、奴はモンスターになった

 俺たちの乗った小型船はシーマたちに曳航(えいこう)されて島の沖合へでた。 これはもともとセシリーの仇敵であったジャニスの持ち物だ。 とはいえジャニスもどこからか盗んできただけのようだけど……。 とにかく今は俺のものになっていてあちこちに改装を施してある。 船体も「修理」...