「大盾を装備してダンジョン前の広場まで移動して待っているんだ。他の兵隊さんの邪魔にならないように広場の西端で待機だぞ」
イワオの移動速度は遅いので先行させることにしたのだ。
ゴクウたちにも今日の仕事を言いつけておいた。
この宿屋はゴクウたちのおかげで回っているようなものだな。
グラム様たちの食事が済むと俺も一緒に出発した。
グラム様たちが歩いているのに俺だけがシルバーに乗るわけにもいかず、今日は俺も徒歩でダンジョンへと向かった。
ワンダーたちが俺の前後に控え、護衛の役を果たしてくれている。
ところでワンダーたちの戦闘力ってどれくらいあるのだろう?
これまでのところ、戦っているのはイワオたちだけだ。
戦うと言っても盾で防御をしているだけなんだけどね。
「グラム様、少々お願いがあるのですが」
「どうした?」
「今日はダンジョンの中でワンダー1号を戦闘に加えていただけないでしょうか?」
ワンダーの戦闘力を知るためには実戦を見てみるのが一番いいだろう。
「うん……敵モンスターが一体だけなら構わない。ただし、組織戦になる場合はダメだ。防御だけのイワオならともかく、攻撃をするワンダーとは付け焼刃の連携などできないからな」
「わかりました。ありがとうございます」
グラム様たちに守られながらワンダーの実力を測れるのだ。
こんなチャンスはまたとないだろう。
「1号、今日はお前にも戦ってもらうからな。お前の実力をしっかりと見せてくれよ」
俺の言いたいことを理解したのだろう。
ワンダー1号は首を少し垂れて低く喉を鳴らした。
調査隊は今日もダンジョン地下1Fを調べて回っている。
迷路のように入り組んだ回廊をマッピングして、端から部屋を確認する作業だ。
地下迷宮というのは都心の地下街に似ていると思う。
壁や床の素材は違うけど、構造はまるで新宿の地下街のようだった。
昨日と同じように隊列を組んだイワオが先行して、その後ろを兵士たちが続く。
回廊の途中で突然モンスターとエンカウントすることもあれば、調べようとした部屋の中に敵がいる場合もあった。
今のところモンスターは複数の場合ばかりでワンダーが活躍する場面は訪れていない。
「男将、気持ち悪くはないか?」
レインさんが気を使って話しかけてきてくれた。
「大丈夫です。少しは慣れてきたみたいですね。でも、やっぱり戦闘になると足がすくみますけど」
「それは仕方があるまい。男は魔法が使えんのだからな」
攻撃魔法じゃなければ使えるんだけどね。
今だって新たにワンダー3号を作製中だ。
いろいろ考えたんだけど、やっぱりゴーレムの作製レベルを上げておくのがいいと判断した。
安全確保や生活向上もあるんだけど、純粋に新しいゴーレムが楽しみでもあるからね。
ダンジョンの中で役に立っているのはタンク役のイワオ、護衛役のワンダー、そして連絡役のポッポーだ。
ポッポーには地上の待機部隊に連絡メモを届けるという任務が与えられていた。
調査は安全を最優先するために、かなりの時間をかけて行われている。
なるべく犠牲者を出したくないというグラム様の配慮だ。
グラム様は一見無愛想に見えるけど、部下のことを大事にする上官だと思う。
「兵員の配置が終わりました。いつでもいけます!」
新しく見つかった扉を開けるための準備が整った。
「男将、頼む」
短く告げるグラム様の表情はいつもと変わらないのだが、どこかよそよそしさを感じる。
きっと酔っぱらってキスをしてしまったからだろうけど、今それをどうこう言うつもりはない。
ここはダンジョンなのだ。
気を抜いている暇はなかった。
「了解です。イワオ、攻撃に備えるんだ! 扉が開かれたら盾を構えて前進」
手順はいつもと変わらないのでほぼルーティンワークになりつつある。
斥候兵がトラップの有無を確認して扉が開かれた。
魔導カンテラに照らし出された室内にうずくまる何かがいる。
姿かたちはダチョウに似ているけど羽は極彩色で眼光はさらに鋭い。
「コカトリアスか」
前方を睨むグラム様の口からモンスターの名前が告げられた。
コカトリアスと呼ばれる鳥は俺たちに気が付くと奇声を上げてこちらを威嚇してくるが、敵の姿は一体だけだ。
「男将、ワンダーを戦わせるのなら今だ!」
「了解です。いけっ! ワンダー1号!」
命令を下すとワンダーはイワオたちの頭を飛び越えてコカトリアスへと襲い掛かった。
ワンダーは身を低くした態勢でコカトリアスの攻撃かいくぐり、脚に噛みつこうとしている。
だけどコカトリアスの動きも素早く思うように攻撃は決まらなかった。
互いに決定打に欠ける膠着した状態がしばらく続いたが、時間がたつほどにコカトリアスの動きが鈍くなっていく。
メタルで出来たワンダーに対して、生身のコカトリアスが出血すれば弱ってくるのは当然のことだった。
そして、ついにワンダーの牙がコカトリアスの長い首に深々と刺さった。
しばらくはジタバタとしていたコカトリアスであったが、やがて身を硬直させたかと思ったら、全身から力が抜けるようにぐにゃりとなって息絶えた。
「終わったのかな?」
「ああ。コカトリアスは死んだ」
よかった、ワンダーがなんとか勝利を収めたぞ。
「ワンダー、こっちにおいで」
血に濡れたワンダーのボディーを確認すると小さな傷が数多くついていた。
ただ、動きに異常は見られないから怪我をしたという感じでもなさそうだ。
あれくらいのモンスターが相手なら勝てる程度には強いということか。
2体一緒に連携を取らせればもっと強くなるかもしれない。
だけど戦いに関しては全くの素人なのでどの程度強いのかというのがわからない。
ここはグラム様に質問してみるのが一番いいだろう。
「グラム様から見てワンダーの戦闘力はいかがでしたか?」
「うん。なかなかいい。あれなら一般兵士3人分の働きと考えていいだろう」
帝国の兵士3人分か……。
ということは単純計算で7人に襲われたらワンダー2体では対処できないということじゃないか。
「えーと、士官の皆さんは一般兵の方々よりお強いのですよね?」
「まあ、そうだな。帝国軍は実力主義だから武技・魔法ともに習熟した者でなければ昇進はできない」
「一般兵の皆さんと比べてどれくらい強いと言えますか」
グラム様は少し首をひねって考える。
「個人差はあるが……士官なら一般兵士3人~5人を相手にしても対処できる」
ということは士官二人に襲われたらひとたまりもないってことだな。
今はグラム様達がしっかりと部隊を掌握しているからいいけど、今後は何が起こるかはわからない。
やっぱり早いところゴーレム作製のレベルを上げないとダメだな。
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創造魔法 Lv.10 全カテゴリの製作時間が5%減少
MP 736/736
食料作製Lv.6 食料作製時間11%減少
道具作製Lv.6 道具作成時間11%減少
武器作製Lv.2 武器作成時間3%減少
素材作製Lv.6 素材作製時間11%減少
ゴーレム作製Lv.5ゴーレム作製時間9%減少
薬品作製Lv.2
修理Lv1
その他――
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これが今のステータスなんだけど、ゴーレム作製のレベルを上げるには後3体は作らないといけない。
現在ワンダー3号を作製中だけど、それも含めて3体ものゴーレムを作るとなれば最短でも5日はかかってしまうな。
他に何も作らなければという話だし。
早いところマルチタスクが可能になって欲しいよ。
ただレベル10に上がって新たに得た能力「修理」だけは創造魔法を使いながらも使用可能だ。
でも消費MPが凄いんだよね。
わざとお皿を割って直してみたんだけど、MPは76も必要だった。
道具作製で新しいお皿を作れば24で済むのにだよ。
もっとも、修理時間は10秒くらいですぐに終わる。
本当に急いでいる時は修理を使った方が便利だとは思うけど、使いどころが微妙だよね。
修理されたお皿をよく観察したけど、新品のようにキレイになっていた。
細かい傷なんかも見当たらない。
単純にお皿をくっつけたというだけじゃなくて、経年劣化に伴う細かい傷なんかも全て直してあるような感じだ。
ひょっとすると時間に関係する魔法なのかな?
だったらこの消費MPにも納得がいく。
「修理」にもレベルがあって、上昇することによって時間と消費MPが抑えられることがわかっている。
今後のレベルアップに期待だね。
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