船長は俺を襲わないとは言ったけど、易々と信じる気にはなれない。
油断して外に出たところで突然襲われることだってあるだろう。
海賊たちは美人もいたけど、そうじゃない人も多かった。
それに、自分の意に沿わないことをさせられるのは嫌だ。
こちらがやめてくれと頼んでも、不思議な魔法でオッキッキさせられて、10人もの海賊を満足させなければならないなんて出来損ないのファンタジーもいいところだ。
悪夢以外の何物でもない。
しばらくは様子見することにして岩屋でヒッキーを決め込んだ。
と言っても、俺は創造魔法が使える生産的な引きこもりだ。
こうしている間にも時間を無駄にすることはない。
作りたい物や作らなければならないものは数多くある。
最初に作ったのは松明だった。
闇の中に海賊たちが潜んでいると思うと恐怖で眠れなくなってしまうから、少しでも明かりを確保したかったのだ。
消費MPは15で作成時間は40分か。
とりあえず4本作っておくことにしよう。
イワオの後ろから森の方を眺めてみたけど、海賊の気配は感じられない。
だけど、奴らがいつ戻って来るかはわからないからな。
防衛能力を高めるためにもイワオの武器も作った方がいいかな?
遠距離攻撃に対抗して石を投げさせるというのも手だぞ。
そう思ってやらせてみたけど、動きがゆっくり過ぎてダメだった。
大きな岩も持ち上げられるが、素早く投げることは苦手のようだ。
こいつはどちらかというとタンク向きのゴーレムかもしれないな。
それだったら棘のついた盾がいいかもしれない。
検索すると大盾というのを見つけた。
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作製品目:大盾(Lv.1)
カテゴリ:武器作製(Lv.1)
消費MP 56
説明:全長200センチの大きな盾
作製時間:18時間
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18時間か……。
食料の余裕はあるけど、何かが急に必要になる可能性もある。
魔法をキャンセルするにしてもMPを56も浪費してしまうのは少し不安だ。
盾の作製は保留としよう。
あれこれ考えながら夕方まで過ごした。
夜の帳(とばり)が下りて、辺りは真っ暗になった。
出来立ての松明に火をともして入口付近に掲げると、岩屋の前が思っていた以上に明るくなる。
原始的な灯りだと思っていたけど、松明超使えるじゃん!
「イワオ、侵入者が来たら必ず阻止するんだぞ」
何度もイワオに念をおしてから、松明をもう2本追加で作った。
おかげで道具作製がLv.3に上がったぞ。
今の俺のステータスはこんな感じだ。
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創造魔法 Lv.3
取得経験値:485/500
MP 108/108
食料作製Lv.2(EXP:154/300)食料作製時間3%減少
道具作製Lv.3(EXP:26/500) 道具作成時間5%減少
武器作製Lv.1(EXP:54/100)
素材作製Lv.1(EXP:43/100)
ゴーレム作製Lv.1(EXP:108/300)
薬品作製――
その他――
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創造魔法のレベル自体ももうすぐ4になりそうだし、レベルアップは順調だ。
だけど浮かれる気分にはなれない。
海賊たちには早く立ち去ってもらいたいものだ。
深夜に海岸の方から聞こえた爆発音で飛び起きた。
松明はまだ燃えていたので視界は良好だ。
消えそうになったら新しい松明を点火するように言いつけておいたけど、イワオは忠実に命令を遂行したみたいだ。
今の音は何だったんだろう?
海賊たちが何かしたのかな?
考えても答えは出ない。
眠ることもできずに、ひたすら小窓から外を眺めて過ごした。
念のために収納袋を頭に被り、その上から鍋も被る。
腰にはナイフをさして、手には槍を握りしめた。
別にふざけているわけじゃないし不格好なことは百も承知している。
だけど使えるものは何でも使って少しでも生存率を高めようと思ったんだ。
異音がしてからしばらくの時間が経っていた。
緊張していた俺はずっと外を警戒したまま過ごしている。
このまま何事も起こらなければいいんだけど……。
極度に緊張していたせいか、いつもより敏感になっていたようだ。普
段なら気づかないような人の気配を俺は捉えた。
「誰だっ!?」
森の方から人の息遣いが聞こえた気がするけど返事は返ってこない。
「イワオ、松明を高く上げて」
イワオが命令どおりにすると、視界が少しだけよくなり人の影が見えた。
「だ、誰……?」
森の中から現れた人影は足を引きずるようにゆっくりとこちらに近づいてくる。
現れたのはなんと赤髪の女海賊だった。
「そ、そこで止まれ! 一体何の用ですか?」
見たところ一人のようだけど、こんな時間にどうしたというのだ?
もしかして夜這いに来た?
「海賊風情がおこがましいとは思うのだが……助けてはもらえない……だろうか?」
船長は息も絶え絶えといった感じで言葉を吐きだした。
よく見ると松明に照らされた顔色が青い。
さらに観察してみると太ももの辺りから出血しているのが分かった。
「け、怪我をしているの?」
「情けない話だが……部下に……裏切られてな……」
船長は自嘲的な笑みを浮かべている。
本当に怪我をしているんだよな。
演技じゃないよね?
だったら助けてあげたいけど、もしもこれが策略なら俺の貞操の危機だ。
だけど……。
くそっ!
やっぱり見過ごすことはできない。
「イワオ、彼女を通してやるんだ。大丈夫だからこっちに来て!」
船長はフラフラしながら歩いてきた。
やっぱり本当に怪我をしている。
出血もかなりひどそうだった。
「危ない!」
よろめきそうになる船長を抱きとめた。
「すまないな。海賊稼業なんぞをしているから、いつ死んでも構わないなどと思っていたけど、いざとなると命は惜しくなるようだ」
「いいからこっちへ。ベッドのところへ来てください」
俺は船長を寝台に座らせて傷を確かめた。
「太ももと、背中にも傷が……」
「ああ。ちょいと油断をしちまってね」
どうすればいいのだろう。
俺の創造魔法でも薬品を作り出すことはまだできないのだ。
包帯くらいなら可能だけど、35分かかってしまう。
「残念ながらここには薬も何もないのです」
正直に告げたが、船長はゆっくりと首を振った。
「こんな島なら仕方がないだろう。今は身体強化魔法に全魔力を注いでいる。治癒魔法には遠く及ばないけど、これで傷の治りは早くなると言われているんだ」
きっと免疫力や再生能力が上がるのだろう。
「私は人より魔力量は多いからね。運が良ければ助かると思うんだ……」
ひどい傷だけど、この人は助かることをあきらめていないわけだ。
だったら俺も自分ができることをして助けてあげるしかないな。
「わかったよ。貴方に手を貸すと約束する。とりあえず太ももの止血をしよう」
傷口に負担をかけないためにも服を脱がせるわけにはいかない。
「傷を確認するために服をナイフで切るからね。じっとしてて」
ナイフを使い慎重に血で濡れた服を切り取っていく。
やがて褐色の太ももが露になり、大きな傷口が現れた。
「傷の大きさの割に出血は少ない気がする」
深さのほどは分からないけど、10センチ以上はある切り傷だ。
「身体強化を使っているおかげさ。そうでなかったら今頃は体中の血液が外に流れ出ているところさ」
やっぱり魔法というのは滅茶苦茶なものだと思った。
「とにかく、太ももの付け根をきつく縛って止血をしましょう」
包帯の作製は既にセットしたけど、それを待っている時間はない。
切り取ったパンツをナイフで裂いて紐を作り、傷口の少し上を縛り上げる。
大事なところが見えてしまっていたけど、少しも淫らな気持ちにはならなかった。
それから、魔法で作成した水を使って傷口を洗い流していく。
背中の傷も洗い流しているうちに包帯の作成が完了した。
素人仕事の応急措置を施している間に船長は眠ってしまった。
ひょっとしたら気を失っているのかもしれないけど、医者じゃない俺にはその区別すらつかなかった。
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