2019年11月20日水曜日

52 闖入者

 調査隊がモンテ・クリス島を後にして三週間が経過していた。
一時の感傷から抜け出した俺は再び無人島ライフを楽しんでいる。
だけどやっぱり人恋しくはあるな。
チャラ女のリーアンでもいいから、誰かと話したい気分にもなっていた。

 グラム様はダンジョンを一般開放するように上申すると言っていた。
もしその案が通れば、この島に冒険者が大勢やってくるだろう。
だったら受け入れの準備をしておいた方がいいと思う。
好みの女の子の前ではいい恰好をしたいし、もしかしたら深い関係になる相手だっているかもしれない。
 とりあえず岩屋の改造から始めようか。
もう少しお洒落で豪華な感じの方が喜ばれそうだもんな。
目指すは南国のリゾートホテルみたいなやつだ。
どうせ時間はたっぷりあるのだ、しばらくは道具作製の日々を過ごそうと思う。

 ゴーレム作製のレベルも上がったんだけど、残念ながら新型のゴーレムは作れるようにならなかった。
その代り作成スピードのボーナスがついた。
これはこれで重宝するのでよかったと思っている。

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創造魔法 Lv.12 (全カテゴリの製作時間が10%減少 クオリティアップ)
MP 1736/1736
食料作製Lv.9 (作製時間17%減少)
道具作製Lv.8 (作成時間15%減少)
武器作製Lv.2 (作成時間3%減少)
素材作製Lv.7 (作製時間13%減少)
ゴーレム作製Lv.8(作製時間20%減少)
薬品作製Lv.3 (作製時間5%減少)
修理Lv.3 (作製時間5%減少)
魔道具作製Lv.3 (作製時間5%減少)
その他――

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 俺のステータスはこんな感じになっている。
レベルもかなり上がっただろ? 
パンなんてグラム様達の分を含めてしょっちゅう作っていたから、個別レベルが最大値に達しているぞ。

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作製品目:パン(Lv.10 最大)
カテゴリ:食料作製(Lv.9)
消費MP 1
説明:この世界の主食。主食ゆえに作成ボーナスが初めからついている。
作製時間:1分
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 パンの作製時間は当初の60分から1分まで短縮されたけど、さらに食料作成のレベル補正と創造魔法のレベル補正の影響も受けるので実際は44秒くらいで出来てしまうのだ。
創造魔法のレベルボーナスで作製物のクオリティもあがり、味もさらに美味しくなっている。
これならどこへ行っても評判のパン屋さんになれるだろう。

 薬品作製がLV.4になってお酒の作製もできるようになった。
さっそく日本酒を作ってみたよ。
俺はあんまり飲まないけど、和食を作る時にお酒は欠かせないからね。
時間はかかったけど鰹節や昆布も食品作製で作ってある。
今夜は白身魚の昆布締めで冷酒を飲みたい気分になってきた。

「よし、魚を釣りに行くか!」

 どんな魚が釣り上がるかはわからないけど、他にやることもない。
道具を掴んでシルバーの背中へと飛び乗った。

 桟橋でボートに乗り込みシーマ1号と2号にけん引してもらった。
シーマは4号までいるけど全員を連れていくことはない。
動けばそれだけ魔力を消費してしまうので3号と4号はお留守番だ。
大物を釣るなら入り江から出た方がいいので、少し沖合のところまでいった。

「オッケー、シーマ! このあたりでいいよ」

 岸から300mくらいのポイントで船を停め、持ってきた仕掛けに疑似餌をつけて海中へと垂らした。
魚を獲るだけならシーマに任せた方が早いから、釣りは完全に俺の趣味でやっている。
転移前は釣りなんて一度もやったことなくて、接待釣りにでたあの日が初めてだったのだから皮肉なものだ。
ここでは時間が非常にゆっくりと流れるので釣りはいい暇つぶしになった。

 暇つぶしと言えば、グラム様をはじめ士官たちが読み終わった本を置いていってくれたのが役に立っている。
毎日読んでいたので、それらもあらかた読み終わってしまったけどね。
この世界の文化や思想が少しはわかったのでいい経験になった。
ラインナップは幅広く、聖典、ロマンス、歴史書や戦記、旅行書などなど。
もちろんエロ本も数冊あった。
読んでみたけど感想は微妙だ。
イチャラブ物は楽しく読んだけど、凌辱系や、調教物にはかなり引いた。
痛そうなのは苦手なのだ。
あと、ユリ系みたいなホモ系。
同性愛者を差別することはないけど、俺には無理だ。
特に体のいろんなところを絡ませるのがちょっと……。
それから、一人の女主人公に男三人がご奉仕する話もきつかった。
男同士での絡みを強要されているところが辛い。
もっとも、これらの話もこの世界の性的なファンタジーなのだろう。
士官たちは俺に対してそんなことを求めていたわけじゃない。
……求めていたわけじゃないよな?

 竿に当りはこなかったけど気にもならなかった。
いざとなればシーマたちが魚を獲ってきてくれるから切羽詰まっていないのだ。
日傘を広げて俺はボートの中で横たわった。
気温は高いけど、日陰に入れば湿度は低いので過ごしやすい。
ボートに屋根をつけるのもいいな。
安定するように双胴船に改造するのもいいだろう。
そうしたら他のゴーレムたちを運ぶこともできるし……。
そんなことを考えながらいつしか俺は眠りに落ちていた。

 おそらく穏やかな島での日々が油断を呼んでいたのだと思う。
この世界へ来たばかりの頃の緊張感を完全に俺は失っていた。
モンテ・クリス島は安全であるという誤った認識がいつの間にか心を侵食していたのだ。

「おい」

 誰かが俺の体を押している。

「起きろ」

 誰だろう? 
士官の一人? 
俺はゆっくりと微睡(まどろみ)から覚めていった。

「……誰?」

 いつの間にか俺のボートに小型船が横付けされており、誰かがこちらへ乗り込んでいた。
思わずサングラスを外したけど逆光が眩しくて却って侵入者の顔は見えなかった。

「久しぶりだねぇ。会いたかったよ」

 誰だろう? 
女性の声だ。
ずっと前にこの声は聞いたことがある気がするけど……。
ぼやけていた視界がはっきりしてくると、目の前の女の人の輪郭が少しずつはっきりしてきた。
女の人は顔にスカーフを巻いていて、誰だかはよくわからない。

「え、と……どちら様?」
「憶えていないのかい? 悲しいねぇ。アンタの大事な恋人の知り合いさ」

 恋人? 
グラム様の……それとも、クリス様の知り合い?

「ククク、本当に私がわからないようだね。これでどうだい?」

 女の人はそう言って、顔に撒いたスカーフを外した。
俺はあまりの衝撃に息を飲む。
だって、顔の三分の一ほどが火傷で赤くただれていたからだ。
髪の毛も一部が焦げていて頭皮が赤黒くむき出しになっていた。

「ほら、よく見てごらん。火傷のある醜い方じゃない。綺麗なままの方をさ」

 やけに白い肌を見つめて記憶の糸を手繰ってみると、やがて一人の人物に思い至った。

「あっ、アンタはセシリーと一緒にいた……」
「ようやく思い出してもらえたようだね。そうだよ。副船長をやっていたジャニスさ」

 ジャニスの口角がニィっと持ち上がり、表情が凶悪に歪んだ。

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