2019年11月20日水曜日

49 ゴミの中で見つけたもの

 耳元で異音がすると思ったら、腕時計のアラームが鳴っていた。
眠る前にかろうじてセットしたのが功を奏したようだ。
もしもこれがなかったら確実に寝坊をしていたと思う。
時刻は朝の五時。
三時間くらいは眠れたかな? 
昨晩はかなり遅くまで頑張ったから、まだ頭がぼんやりとしている。
自分から誘っておいてなんだけど、グラム様の性欲は凄かった。
たとえて言うとね、中学三年生くらいの男子みたいだったよ。
ぶっちゃけ地球だと、男はのべつ幕なしで欲情しているよね? 
この世界ではそれが逆になって、女の人がそういう状態のようだ。
しかも、この世界の女の人は初めてでも痛くないんだって。
びっくりしてしまいましたよ。
じっさいグラム様は最初から元気いっぱいだったし……。
やっぱり、精神だけでなく肉体の構造も地球の人とはちょっと違うみたいだね。
まあ、俺の知っている地球人の女の子は一人だけだから比べるのは難しいんだけどさ。
ぼんやりとして頭が重いけど宿泊客の朝食を作らなくてはならない。
ゴクウたちに手を引いてもらって、俺は何とかベッドから起き上がった。
魔法の力を借りたとはいえ、七回はやっぱりきつすぎた。

 あまりの疲労にシャワーも浴びずに寝てしまったから、水浴びをしておこうと思って川へおりていったらグラム様とかち合ってしまった。

「おはようございます」

 ちょうどシャツを脱ぎかけていたグラム様に声をかけたらいきなり挙動不審になっていた。

「お、お、おは、おはよう」

 これじゃあ昨晩のことが一発でみんなにばれちゃうよ。

「グラム様、落ち着いてください。そんな態度だと俺たちのことが部隊中に広がってしまいますよ」
「う、うん。スーハー、スーハー、スーハー……」

 深呼吸で平静を保とうとしているようだ。

「グラム様も水浴びですか?」
「うん。寝不足の頭をスッキリさせようと思って……」

 お互い身体の方はスッキリしているもんね。
賢者モードからは時間が経ち過ぎているけど、修行僧レベルくらいにはあるはずだ。

「俺もです。自分は向こうで浴びてきますね」

 小さく手を振って板塀のある俺専用の風呂の方へ入った。
一緒に水浴びをしてもいいんだけど、他の人に見つかったら大変なことになるからね。
中に入るときにチラリと振り向くとグラム様がシャツを脱いだところだった。

「……」

 あんなにしても、やっぱり気になるもんなんだよな……。


 朝食のメニューは毎日それほど変わり映えしない。
卵料理と野菜料理、キノコのソテー、パン、飲み物くらいのものだ。
スープをつけたこともあったけど、最近はやめてしまった。
季節は夏に向かっているらしく連日最高気温を更新しているような陽気だった。

「男将、少し顔色が悪いんじゃないか?」

 シェリルさんが俺の様子を気にかけてくれた。
さすがは治癒士だ、人の体の状態をよく見ている。

「昨晩はちょっと寝付けなくて、寝不足なんですよ」
「それはいかんな。こっちに来てごらん。回復魔法をかけてあげるから」
「今日も調査があるのでしょう? こんなところで魔力を消費するのはまずくないですか?」
「消費魔力の少ない魔法だから大丈夫よ」

 それならば治療してもらおうかな。

「私に背中を向けて座って」

 言われたとおりにすると、背中に手を当てられ、そこから体の中に水が流れ込んでくるような感覚がした。

「ああ、気持ちいイイです……」
「だろう? ゆっくりとやるから動かないでね」

 霧が晴れていくように頭の中がクリアになり、体も軽くなった気がしてくる。
まったく無かった食欲も出てきたぞ。

「すっごく楽になりました!」
「それは、よかった。また何かあったら言ってね」

 みんなが出かけたら昼寝でもしようと思ったけど、これなら問題なく活動できそうだ。
今日もダンジョンの方を見学してみようかな。

 朝食の後片付けをしていたら三体目のシーマができ上った。
マーメード型は陸上だと動けなくなってしまうから出現場所を海にしてやらないといけない。

「ゴクウたちはいつも通りに洗い物と掃除を頼むね。ワンダーとポッポーは俺についてきて」

 少し運動不足だから海岸までは徒歩で行くことにした。
木陰の下を選びながら歩いて三日月海岸までやってくると急に視界が大きく開けた。
強い日差しに目が焼けてしまいそうになる。
今度はサングラスを作製しないとダメだな。
シーマ3号を出現させたらさっそくセットしておこう。

 海辺まで出て、シーマ3号を海中に出現させた。
まん丸い目と口をしたカッパがぷかぷかと三体も浮かんでいる姿はちょっと面白い。
久しぶりにボートに乗りたい気分になってきた。
シーマたちが上手に動かせられるか確認をした方がいいだろう。

「最初はゆっくりやってみよう。1号は真後ろから、2号と3号は左右について」

 波の少ない入り江の中で練習を開始した。
トライ&エラーを繰り返すことでシーマたちもだんだんとコツを飲み込んできたようだ。
だけど直接手で押すよりも、馬車や犬ぞりのように引っ張る方がいいのかもしれない。
次にやるときはロープやハーネスを用意してみるか。

「シーマたちも慣れてきたみたいだし、入り江から出てダンジョンの方へ行ってみようか。ポッポー、ワンダーたちにダンジョンの方へ来るように伝えてきて」

 転覆の恐れがあったのでワンダーたちは岸に残してきたのだ。
ゴーレム同士は意思の疎通ができるようで、ポッポーはメッセンジャーとして役に立つ。
海岸へ飛んでいくポッポーを見送ってから、進路をダンジョン方面へと向けた。

 入り江を出てもシーマたちは安定した運航を続け、ほどなくダンジョン入口へとつながる洞窟へと到着した。
陸へ上がるとワンダーたちはもう到着していて、すぐに俺の側へ駆け寄ってくる。

「桟橋にボートを戻しておいてね」

 島の道路網はまだまだ整備されていないから、シーマのボートを使う方が移動時間が少なくて済む場合も多そうだ。
これからも積極的に活用していくとしよう。
他のゴーレムたちが乗っても転覆の恐れの少ないもう少し大きな船が欲しくなってきた。
作成自体は可能なので、考慮すべきはタイミングだけだ。
調査隊が帰還したら考えてみるとしよう。

 地上に出ると、兵隊さんたちが手押し車を押しながらダンジョンから出てくるところだった。

「ご苦労様です。財宝ですか?」
「違う、違う、これはゴミばっかりよ」

 ごみ? 
よく見ると中身はボロボロの装備品ばかりだ。

「ほんとだ。なんですかこれ?」
「スケルトンの群れに遭遇してね。奴らの装備は古くて使い物にならないモノばかりなんだけど、たまにお宝が混じっていることがあるから確認のために持ってきたの」

 スケルトンというのはかつての戦士や騎士の死体がモンスター化したものだから、生前の装備がそのまま残されるそうだ。
だから、ごく稀にだけど金や宝石をあしらった剣や鎧なんかも見つかるらしい。

「金は腐食しないから、ちょっと見ればすぐに確認できるのよねぇ」

 だけどパッと見た感じ、手押し車の中にはろくなものがないぞ。

「今回は外れっぽいですね」
「ああ、こんなガラクタばかりさ」

 兵士はボロボロに錆びた剣を俺にプラプラ振って見せてくれた。
かつては名刀だったかもしれないけど、今は全体的に焦げ茶色で光る部分は一つもない。
でも、これだって鉄の塊だよな。
だったら道具作製時の素材にはなるだろう。
一から作るよりはずっと時間が短縮できる。

「兵隊さん、その錆びた剣を貰ってもいいかな?」
「こいつをかい? まあ、こんなボロなら誰も文句なんて言わないか」

 兵士が手渡してくれた剣は思っていたよりもずっと重かった。

「うわわ」
「ははは、お兄ちゃんが振り回すにはちょっと重たすぎるようだね。気をつけて持って帰るんだよ」
「ありがとう。お仕事頑張ってね」

 鉄がこれだけあれば、しばらくは素材に困ることはない。
それにしても汚い剣だね。
……だけど握りしめると何故だか手に馴染むような気がする。
元はどんな剣だったのだろう? 
そこで俺はいいことを思いついた。
「修理」の魔法を使えば対象がどんな感じの物かおおよその見当はつく。
どれどれ……。

####

修理対象:エクスシアスの剣
説明:第六位階の天使、エクスシアスが所持していた剣と伝えられる。光魔法を刀身に宿しすべての悪霊を打ち払う力を持つ。
消費MP:1022
修理時間:32時間

####

 ……。
これ……お宝なんじゃね? 
だって天使の持っていた剣だぜ。
でも、第六位階かぁ……どの程度なのかさっぱりわからない。
四天王最弱的な立ち位置だと大したことはなさそうな気もするけど……。
消費MPはギリギリいける。
ただ、修理時間はかなり長いな。
「修理」の場合はあまり時間がかからないはずなのだけど、これはかなり長い。
もしかして宝剣だったりして? 
一人で悩んでいてもしょうがないからグラム様に聞いてみよっと!

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