2019年11月20日水曜日

9 別離

 今、俺が欲しいのは収穫物を入れる肩掛けバッグかリュックサックだ。
ステータスパネルで検索をかけたらこんなのを見つけた。

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作製品目:収納袋(肩掛けにも背負いにもなる2wayタイプ)(Lv.1)
カテゴリ:道具作製(Lv.1)
消費MP 24
説明:植物の繊維で編んだ収納袋。
作製時間:8時間
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 素材となる草も見つかったから作成時間は4時間で済む。
4時間で完成なら寝る前にはできあがるな。
収納袋ができあがったら、一度MPを満タンまで回復させて、それから明日の朝のパンをセットしてやれば朝食にも困らないだろう。
同一の物ならMPの限界までセットすることができるのだ。
パンを6個セットしてから眠ればいい。
6MP×6個で36MP。
俺の魔力は40MPだからいけるはずだ。

 岩屋に戻るとクリス様はもう戻っていて石の寝台に柔らかな枯葉を敷き詰めているところだった。

「ただいま」
「見てみろ、シロー。これで今夜はぐっすり眠れるぞ」
「牢獄のベッドよりずっと立派ですよね」

 寝台はキングサイズのものが一つだけだ。
クリス様ったら最初から一緒に眠る気満々だな。
俺もその方が嬉しいけど。

「ところで、今後はどうするつもりなのですか?」

 ボートの中で予定のあらましはすでに聞いていた。
クリス様としては東方に配置された国境守備隊1万と合流して何とか再起を図りたい考えだった。
当方の守備隊は堅牢な城壁をもつバワンダ城を本拠にしており、破竹の勢いがある帝国軍でも簡単に落とせない規模の軍勢なのだそうだ。

「もちろん当初の予定通りバワンダ城へ向かうつもりだ。これは確定ではないが私たちは南東の方角に流されたのだと思う。ゆえに東を目指せば陸地が見えてくるはずだ」

 やっぱりそうなるか。

「前もお聞きしましたがバワンダ城はもう戦闘状態なんですよね?」
「残念ながらそのとおりだ。しかし最後に聞いた報告では、バワンダ城塞軍が帝国軍に大打撃を与えて撤退させている。今はにらみ合いが続いているとみていい。あそこは城壁内に肥沃な畑があり、10年は備蓄が持つといわれている。きっと大丈夫だ」

 クリス様の説明を聞いて俺の腹は決まった。

「クリス様、俺をここに置いて行ってください」
「なっ!?」

 ずっと考えてきたことだった。

「俺に戦闘は無理です。おそらくクリス様の足手まといになるだけでしょう」
「しかし!」

 いくらクリス様が強くても、俺をかばいながらでは手傷を負われることは目に見えている。

「私なら大丈夫です。食事や生活必需品は魔法で作れますし、レベルが上がればいつかは高性能の船だって作り出せるはずなのです。そうすれば楽々とこの島を脱出することだってできます。でも、それにはまだ時間がかかりますし、クリス様は急いでいるのでしょう?」
「シロー……」
「だから私のことは気にせずに東へ旅立ってください。そして再起をおはかりください」
「シロー! すまん……」

 クリス様が抱きついてきた。
まるで甘えっ子のように縋りついてくる。
クリス様は王女だ。
自分の意思だけで行動を決めるわけにはいかないことは俺にもわかる。
それに、正直なことを言えば、戦場には行きたくないという気持ちもあった。
クリス様のことは好きなんだけどね……。
やっぱり俺は静かに暮らしたい。

「でも、すぐに出立というわけにはいきませんね。十分な食料と飲料水を用意しなくてはなりませんからね」
「うむ」

 その晩はいっぱいサービスされてしまった。
クリス様は本当に丁寧に俺の弱いところを攻めてくる。
またそれが楽しいようだった。
俺もしっかりと応戦したぞ。
本物の戦闘は弱いままだけど、こっちの方はここ数日で長足の進歩を遂げたと思う。
だけど、この世界だとこれはビッチということになってしまうらしい。

「昼は貞淑、夜は娼夫のようにというのが喜ばれる男の姿なのだ」

 なんて勝手な言い草かね。
……あれ? 
地球ではこれの逆のようなことを聞いたような。
結局、力を持っている方にとって都合の良い世界ができていくのかもしれない。

 ことを終えて身繕いをしているといつものアナウンスが表示された。

ポーン♪
収納袋 作製終了まで00:00:00
収納袋が完成しました。出現場所を指定してください。

 さらに続いてアナウンスが表示される。

ポン、ポーン♪
創造魔法のレベルが2に上がりました。

待っていました! さっそくステータスを確かめてみよう。

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創造魔法 Lv.2
取得経験値:31/300
MP 55/55
食料作製Lv.1(EXP:54/100)
道具作製Lv.1(EXP:77/100)
武器作製Lv.1(EXP:0/100)
素材作製Lv.1(EXP:0/0)
ゴーレム作製――
薬品作製――
その他――

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 MPが40から55に増えている。
これでMP不足で作れなかったものも作れるようになるな。
他は変わらずでゴーレムも薬品も未だ作れずか。
これは各カテゴリのレベルが上がるか、創造魔法のレベル自体がもっと上がる必要があるのかもしれない。
何にせよ必要な物はたくさんあるのだから、どんどん作ってガンガンレベルアップを目指すとしよう。
6個作る予定だったパンを9個セットしてから眠った。
きっと、いいタイミングで焼き立てを食べられるぞ。
こうなるとコーヒーとかも欲しくなるな。
コーヒーの木とか生えていないだろうか? 
生えていなくても作ることはできるのだからまた試してみよう。
その場合はポットとかフィルターとかカップとかいろんなものを作り出さなきゃならないけどね。
あっ。最初からドリップされたコーヒーを作ればいいのか!



 朝食には予定通り焼き立てのパンと果物を食べた。
今日は食料の備蓄に励むことになっている。
ここは陸からどれくらい離れているかもわからないし、クリス様が安全に旅をするためにも一週間くらいの水と食料がいる。
クリス様は森へ狩りに赴き、俺は水を入れるための水瓶(みずがめ)を作製しながら果物を集めた。
昨日作ったばかりのバッグがさっそく役立っている。
水は一日最低2リットル必要として、一週間で14リットルか。

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作製品目:水瓶(小)(4リットル)(Lv.1)
カテゴリ:道具作製(Lv.1)
消費MP 25
説明:素焼きの水瓶。
作製時間:10時間
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水瓶一つで4リットルだから4個は作らないとな。
通常の作成時間は10時間だけど地上の土を利用すれば6時間で作成が可能だ。
とりあえず2個セットすれば夜の8時には完成する。
お昼のパンは作れないけど仕方がない。
さっそく水瓶の作製を開始した。

 森中を歩き回って果物を探したのだけど、一つ分かったことがある。
サバイバルにナイフは絶対の必需品だ。
バナナやマンゴーをもぎ取るのさえ苦労したのだ。
落ちていた岩をぶつけて即席の打製石器ナイフを作ってみたが、ないよりはずっとましだった。
マンゴーの弦を切るのだって少しは楽になる。
ちゃんとしたナイフはMP不足でまだ作れないから、このナイフは大切に使おうと思っている。
後で大岩のところで研磨して磨製石器に昇格させてやるつもりだ。

 岩屋の手前でナイフを研いでいるとイノシシを引きずったクリス様が戻ってきた。

「大きい!」

 俺では持ち上げることはおろか引きずることも難しいくらいの大物だ。

「うむ。マジックアローで仕留めたのだが、どうにも困った」
「どうされたのですか?」
「解体の仕方がわからないのだ」

 ワイルドな雰囲気を持っているけどクリス様って王女様だもんな。
だけど解体の方法なんて俺も知らない。
料理は好きなので魚なら捌けるんだけどね。

「うろ覚えの知識で血抜きはしておいた。だがこの後がどうにもわからん」
「おそらく皮をはいで内臓を取り出すのでしょうね」
「ふむ。わからんなりにやってみるか」

 二人で小川まで移動して解体をしてみた。
どっちも素人なので可食部分はかなり少なくなったと思うが、クリス様の手刀を使ってどうにかこうにか解体を終えた。
切れ味だけは抜群だから、骨だって皮だってスパスパ切れた。
もも肉だけで食べきれないほどの量がある。

「これ、どうしましょう? 塩漬けにするにしても手持ちの塩はわずかです」

 海水から真水を作ったときの残りが一握りあるだけだ。

「燻製にすれば保存が利くのではなかったかな?」

 それだ。
倒木をクリス様の手刀で切ってもらい大きな箱を作った。
その中に肉を吊るして煙で燻す。
キャンプでは段ボール箱で作った燻製器を使ったりするんだけど、ここでは段ボールより木の方がたくさんある。
点火はクリス様に火炎魔法をお願いした。
そういえばクリス様がいなくなったら火をつけるのにも困ってしまうな。
ライターなんかも創造魔法で作れるんだけど今のところMP不足で無理だ。
そのかわり火打石というものを見つけた。
消し炭やオガクズ、枯草などを利用すれば点火はできるようだ。
クリス様の出立の準備が整ったら作ってみよう。

 その夜は久しぶりに焼き肉を食べた。
肉は少し硬めだったけど、脂の甘みに感動した。
肉の油ってこんなに美味しかったっけ? 
考えてみればまともなたんぱく質を取るのは三日ぶりだ。
体が欲していたのかもしれない。

 夜になって水瓶が2個完成したので、新たに2個をセットしてからベッドに入る。
今夜はクリス様と過ごす最後の夜だ。
もしかしたら、もう二度と会えないかもしれないのだ。
クリス様はいつもよりさらに激しく俺を求めてきた。
それが嬉しくもあり、切なくなるような気持でもあった。

「クリス様、お願いがあるのですが」
「どうした?」
「自分が上になってもいいでしょうか?」
「ふふ、そんなことまでしてくれるのか?」

 いや、俺にとってはこれが普通なんだよね……。
だけど、この世界の貞淑な男はやらないことのようだ。

「わかった、シローの好きに動いてみろ」

 お言葉に甘えて思う存分に自由を味わってみた。
だって、最後の夜なんだもん。

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